中年離婚的危機


 「私も経済力がついてきた。」

 初夢(31日の夜の夢か、元旦の夜の夢かわからないが)も見られぬまま、「夢郷」に追い出された新年の二日目の朝だった。

 熟年離婚のことについて話し合う番組がやっていた。「なぜ離婚が増えているのか?」と聞かれ、あるコメンテーターが「女性は経済がついてきたからではないでしょうか」と言った。それを聞いて、家内は近寄って冒頭の一言を言った。

 瞬間的に状況が把握できなかったので、「よかったですね」と言ったが、しばらくするとことの重大さに気がついた。それは、明らかな脅かしだった。

 熟年離婚されるところか中年離婚の危機が足音を立てて迫ってきた。

 何とか危機から脱出する方策があるかとテレビのボリュームを上げ、愛用しているメモ帳を手に蜜柑の皮が散乱している炬燵の前に正座した。

 夫婦円満の秘訣?と聞かれ、ある有名人は「我慢だ」と言ったのを聞いて、「英雄所見略同」と同感しながら、平凡な答えだと思った。笑いを強要する他の番組よりは幾分役に立ちそうなその番組をもう少し「我慢」することにした。
 
 なんと、「夫と上手に付き合う魔法」も教えると言っているじゃないか。それを聞いて、「知己知彼、百戦百勝」、相手の出方を知っておいたほうが損はないと思って、放棄したメモ用紙をまた手にした。

 「夫と上手に付き合う魔法」は以下のようなものだった。

  買い物が一人で行くべし
  夫を子ども扱いするべし
  先輩になるべし
  夫婦喧嘩をするべし

 授業の準備をするより真面目にメモをしたのが馬鹿馬鹿しいと思えてきた。何故かというと、その何箇条はわが家で実践されていることだからだ。
 それだけうまくつき合わされているとわかって、複雑な気持ちで「お餅でも食べようかな」とぶつぶつ言いながら、蜜柑の皮と一緒に台所に行った。